Focus On
堀江健太郎
株式会社ワンダーラスト  
代表取締役
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シリーズ「プロソーシャルな距離」について |
00 起業の経緯
「創業は2015年12月ですが、事業化については2010年くらいから石田と私で議論していました」
同社の代表取締役を務める石田とは、20年来の友人であると語る荻野。民間シンクタンク勤務を経て当時富士ソフトの役員だった石田は、二人の自然言語処理のエキスパートと出会っていた。現在執行役員CCOを務める淺野、同じく執行役員CTOの呉である。そこに開発責任者と営業担当者が加わり、のちの創業メンバー6人が揃った。
CTOである呉は、15年以上自然言語処理の研究開発に従事し、学生時代には数学オリンピックで金メダルを獲得した経歴も持つ。アプリケーションレイヤーの開発責任者には、日本で初めてAWSの大規模な実装に取り組んだ実績を持つ人物が就いている。まさに各分野の先駆者ともいえる精鋭が、同社のビジョンのもとに集まっている。
「口幅ったい言い方ですけど、日本の労働生産性を上げるためにやっています。ただでさえ日本の労働生産性は低いのに、諸外国がITとかAIをどんどん活用していくと、その差は広がる一方で。それになんとか対抗して、生産性を上げていきたい。それが、創業の時からのビジョンです」
同社の営業戦略の変遷に迫る。
02【2016年 創業半年】営業とサービス活用の関係で生まれた課題
自然言語処理AIという領域は、2015年設立当初はまだまだ認知度が低く未開拓な市場だったと荻野は語る。
「初期はリードが十分になく、とにかく僕らが接点ある企業をプロアクティブに攻めていました」
顧客からの問い合わせが来れば、1件1件を大切に対応していく。そうして事業拡大を目指していた。しかし、ある問題が浮上してくる。
02【2016年 創業半年】営業とサービス活用の関係で生まれた課題
「導入プロジェクトを回しても、お客さんからアウトプットが上がってこない。社長とか経営陣はやるぞ!となっていても、現場に落としたときに現場が回せなくて、プロジェクトがスタックしてしまう例が何度かあったんです」
より多くの企業に、AIの活用を広げていくべく、顧客を絞らず積極的に営業活動を行っていた同社。しかし、サービス開始から半年~1年ほどからプロジェクト推進に問題が発生していた。
「僕らのシステムはポンと入れれば終わりではないんです。導入に向けた教師データの準備から、導入後も再学習をしていく。その取り仕切りが必要なんですね」
サービスは営業して終わりではない。それがどう活用されるかがあって、事業に影響をもたらし、さらなる顧客が広がっていく。顧客の現場レベルでのコミットメントに目を向け始めたのはこの時だった。
AIは入れれば即生産性向上に繋がるわけではない。製品単体を売って終わりの話ではない。それはどのサービスでも同じことが言える。とりわけ同社のAIサービスであれば、お客様にメリットを提供するためにも、現場で運用改善がなされることは尚更重要な要素であった。
「生意気な言い方かもしれないけど、お客様を選びました。僕らもやってくなかで学習したんですが、IT人材層の薄い会社、リテラシーの高くない会社ではうまくいかないことがあるんです」
お客様の成長のためにも、プロジェクトが上手くいく会社とお付き合いする。それは、サービスの価値最大化のために必要な選択だったのだ。
お客様のIT・AIに対する姿勢によりサービス導入後の生産性向上の成否に影響がある同社。
新たな技術は時代の変化とともにその有用性が理解されていく。同社の目指す「生産性の向上」もまた、社会的要請とともに企業の意識に変化をもたらしていったという。
「分かりやすいところで言うと『働き方改革』ですよね。経済界全体としても、生産性の議論は活発になってきていますし。最近ではお客様も勉強されています。最初のころは、僕らがAIとはなんぞやという話から始めるので啓蒙活動に時間がかかったんですが、今はお客様の中でもかなり踏み込んだ質問が、最初の問い合わせからあったりして」
『チャットボットを入れたい』、『コールセンターを自動化したい』。問い合わせ内容も、時代の変化とともに以前より具体的で絞り込んだ話が多くなってきた。人口減少やテクノロジーの飛躍的進化などの社会的情勢を受け、マーケットのITリテラシーは向上していったという。
加えて、2020年3月その動きを加速させる出来事が起きた。
「コロナウイルスの騒動がいろいろ大変な局面ではありますけど、日本人のITリテラシー向上という意味ではすごく良い効果あったんじゃないかなと思います。オンライン会議技術は、昔からある技術だったじゃないですか。ほとんどの人は使いこなせなかったのが、在宅勤務によって必要に迫られて使われるように、というより使わざるを得なくなった」
時代の転換とともに生活様式が変わり、受け手の認識は変わりゆく。そうして新たな技術は社会実装されていく。
社会の課題は尽きず、そのたびに新しい解決策としてのサービスが生まれてくる。変化する期待に技術で応えつづけるには、日々先進的な技術力を維持する組織でありつづけなくてはならない。それを叶える同社の組織づくりに指針はあるのだろうか。
「うちのエンジニアの文化でいうと、基本的には自由にやらせています。服装も何も言わないし、勤務時間も最低限のコアタイムさえ守ってくれればいい。コロナの影響が出る前から、在宅勤務は認めていて。たとえば、ものすごく高度な数学の問題を解いているときに、8時間やったらそれで十分疲れるじゃないですか。首根っこ捕まえて仕事させてもいい仕事はできない。エンジニアに限らず全社的な発想ですね」
日本の労働生産性を掲げるエーアイスクエアは、組織においても社員が生産性高く働ける環境を重視する。そのために「自由である文化」を掲げている。
残業すれば、会社であれば、質の高い仕事ができるわけではない。人の集中力は、時間や場所を縛って生まれるものでない。就業時間中に集中して作業を終えたら、あとは帰宅して各々好きに過ごす。締め切り間近で家にこもって作業したければ、出社しなくてもいい。それぞれが最も生産的に働くための自由を認めている。
自由。それこそが、技術力の高さを維持するための風土なのだ。
今後高まる需要に応え、時代の変化とともに日本の生産性を上げていくエーアイスクエア。AIで働き方を変革する。地平はもうそこに切り開かれている。
2020.07.07
文・Focus On編集部
荻野 明仁
株式会社エーアイスクエア 取締役
日産自動車を経て、アーサー・D・リトル・ジャパンにて製造業・通信業向け事業戦略立案を担当。 2001年より東京海上キャピタル(株)パートナー。バイアウト投資、ベンチャー投資を担当。 デジタルコンテンツや電力関連のスタートアップ起業の後、2015年同社設立。
>>次回予告(2020年7月14日公開)
『元東京海上キャピタル ベンチャー投資パートナーの目線 —「伸びる会社」の条件』
投資家から起業家へ。数多くの会社の行く末を見つめてきた荻野の視点から、伸びる会社にある事業領域と組織の原則を紐解いていく。
連載一覧 「営業しない営業」という創業1年目の決断 01【2015年 創業時】1件1件に対応していく 02【2016年 創業半年】営業とサービス活用の関係で生まれた課題 03【2017年 創業2年】「営業しない営業」の選択 04【2018年 創業3年~】時代の変化 05【組織】高い技術力を維持しつづける組織 元東京海上キャピタル ベンチャー投資パートナーの目線 —「伸びる会社」の条件 |
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