Focus On
栫井誠一郎
株式会社Publink  
代表取締役
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or働きながら妊娠・出産と向き合う女性が増える一方で、多様化する生き方の道しるべはあまりにも少ない。2023年4月、フェムケアブランド「SOLUME(ソリューム)」は子育てと仕事の両立など、尽きない悩みや不安を抱える現代女性たちのために立ち上げられた。
掲げられたコンセプトは「妊娠と出産をもっとロジカルにする」こと。同ブランドを手掛ける人物こそ、現在、株式会社ユーグレナのブランドマネージャーであるハヤカワ五味だ。これまでにもランジェリーブランド「feast」、フェムテック事業「ILLUMINATE」など、多数の事業を世に送り出してきた実績を持つ。
Focus On×ソーシャルM&A®︎ファームGOZENが送る連載「ソーシャルM&Aという人生戦略」。第2弾インタビューとなる今回は、18歳で起業して以来、10年近くビジネスの最前線を走りつづけてきたハヤカワが見据える視線の先に迫る。(聞き手:GOZEN代表 布田尚大)
Focus On×ソーシャルM&A®︎ファームGOZEN共同企画「ソーシャルM&Aという人生戦略」では、社会課題解決を目指すソーシャルビジネスや、クリエイター発の美意識あふれるスモールビジネスの領域において、M&Aによって事業、そしてライフキャリアの可能性を拡張させてきたアントレプレナーたちの生き方や意思決定に迫ります。 |
▼前編(本記事)
IPOだけが素晴らしい起業じゃない / ハヤカワ五味×GOZEN布田対談
▼後編
ライフプランよりも大切な「身軽さ」とは何か / ハヤカワ五味×GOZEN布田対談
布田尚大(以下、布田):ユーグレナにジョインしてから1年くらい、ハヤカワさんの初めての会社員生活に近いと思うのですが、大企業の中で事業を進めることに対して感じていることはありますか?
ハヤカワ五味
1995年東京都生まれ。株式会社ユーグレナ サステナブルブランド戦略室ブランドマネージャー、株式会社feast 取締役。高校生の頃からアクセサリー類の製作を始め、プリントタイツのデザイン・販売を行う。多摩美術大学グラフィックデザイン学科入学後の2014年8月にランジェリーブランド「feast」を立ち上げ、Eコマースを主に販売を続ける。2019年からは生理から選択を考えるプロジェクト「ILLUMINATE」を立ち上げ、2022年よりユーグレナ・グループにジョイン。現在は、はたらく女性向けの妊娠・出産をサポートするブランド『SOLUME(ソリューム)』のブランドマネージャー。
ハヤカワ五味(以下、ハヤカワ):結構自分は大企業に向いているかもしれないという思いと、やっぱり向いていないかもしれないみたいな思いのあいだを行ったり来たりしています。
向いているかもしれない部分で言うと、割と優等生タイプなのでいろいろな環境に適応できる方ではあって、もともとの個人経営者から会社員という立場に変わっても意外に違和感はないなと思いました。勤務地が変わったとかそういった不便はあるけれど、ものすごくストレスがかかるようなこともなくて、それはおそらくユーグレナの方々の人の良さもあると思いますね。
逆に少し向いていないかもしれない部分は、そもそも会社員って経営者よりも時間があるイメージがあったんですが、冷静に考えて会社員の方が忙しいですね(笑)。なぜなら、会社員ってよほど経営レイヤーとか人事部じゃない限りは人事権がないわけじゃないですか。リクエストはできるけど雇用となると結構ハードルが高い。もともと私はコストを削減しながら事業を立ち上げる、つまり人件費まで含めてトータルのパフォーマンスを考える傾向があるのですが、その場合人材配置を最適にするなどの採用的な観点が必要になったりするんですね。
たとえば、美大生のインターンをたくさん採用して、その子たちに仕事を教えることでレバレッジを効かせてやってきたことが強みだったんですが、そういう今まで得意としていた闘い方がしづらくなったのは中々難しいなぁと感じます。
布田:今のは経営の実務レイヤーの話かなと思うのですが、仕事観や労働観のレベルで変化はあったりしますか?
ハヤカワ:これはたぶんあまり変わらないという回答になると思っていて。なぜかというと、会社員だろうとそうではなかろうと、世の中に出す自分の仕事がダサいことが嫌だという基準でやっているので、それってどの環境でもそこまで変わらないと思います。ただ、お金の大局的な動きとして心配がないという点は大きくて。個人でやっていた頃は来月の支払いどうしようとか考えなければならなくて、やっぱりそれがないことは会社員のいいところだと思うし、当時を経験したからこそありがたいなと思います。
布田 尚大
ソーシャルM&A®️ファームGOZEN代表。スモールビジネス、ソーシャルビジネスの経営とM&Aが専門。2022年、3年間経営 したボディポジティブなランジェリーブランドfeastの事業グロースとバイアウトを実現。現在株式会社feastにて取締役社長としてPMIに従事。株式会社水中メンター/2018.2019年渋谷ファッション&アート専門学校 非常勤講師/日本マーケティング学会会員。一橋大学 社会学部/同大学院 社会学研究科修士課程修了。WSD28期ワークショップデザイナー。1983年東京生まれ。
布田:高校時代の個人事業主、「feast」の学生起業、あとは「ILLUMINATE」でエクイティを入れての経営、今はユーグレナという大企業に入って。振り返ってこの時が1番楽しかった、あるいは1番しんどかったという記憶はありますか?
ハヤカワ:高校時代はどちらかと言えばやりたいことをやるために必要なことを叶えていた感じが強かったので、フリマでモノを売るような感覚に近くて、その時は大変だったことも良かったこともそんなにないですね。しいて言うのであれば、明らかに人より確定申告を始めるのが早かったくらい(笑)。
やっぱり振り返っても「feast」を学生起業した時が1番しんどかったなと思います。大学1年で起業したとはいえ、自分としてはこれ1本でやっていく気がないし、就職するつもりだったから、大学4年の段階では就活もしていたんです。だけど、事業としてはニーズが大きくなっていくし、雇用もしている状態で、どうしたらいいか結構手探りで。金銭的にもいわゆる自転車操業、ブランドを良くしていくという意味でも走りながら直すような作業が結構多かったので、今考えても明らかに1番しんどかったのがその時期だと思います。
当時はもう目の前のことで手一杯だったんですが、そこでまとまった金額の借入れをしたことは個人的にかなり反省していて。正直、実力以上のお金を借りられてしまっていたと思うんです。少なくとも自分の場合はそうで。それも今年完済なんですが、逆に28歳になってやっと完済という話でもあるので、それがこれまで自分の重しになっていたことは認めざるを得ないかなと思います。
布田:その後の「ILLUMINATE」やユーグレナ含め、「feast」が1番大変だったというのは結構示唆深いですね。
ハヤカワ:大変の質が違ったんです。もちろん「ILLUMINATE」自体も大変ではあって、トラブルもあったし金銭的にしんどい時期もあったし、それこそステークホルダーの方もいたので大変だったのですが、そのステークホルダー然り仲間然り、いい人たちが多かったので頑張れました。
やっぱり「feast」時代は正直味方がいなかった、もしくはいたとしても辞めてしまったとか、そういうことが続いていたので四面楚歌のような状態とも言えたんですよ。常に次は誰に裏切られるんだろうと考えなければいけないとか、この人が言っていることは事実なのかと疑わなければいけないとか。信頼できて一緒に歩んでくれる人が見つかるまで、それこそ布田さんが入って安定したという話でもありますが、それまではしんどかったです。
布田:周りにM&Aした起業家もいれば、IPOした人もいれば、スモールビジネスを続けている人もいると思うのですが、こういう失敗をしている人が多いとか思うものはありますか?
ハヤカワ:自分が本当に資金調達と急速なスケール、IPOや大型のM&Aをしたいのかというところは疑って考えてもいいのかなと思います。結構それでしんどそうな人が多そうだなと。そもそもIPOできないビジネスモデルだよねとか、したくないけどIPOや大型のM&Aをせざるを得ないプランで組んでしまっているパターンが多い。
自分の高校生時代を振り返っても、美術予備校に通うとみんな芸大を目指していたんですね。私も通学当初は多摩美に行きたかったんですが、予備校の先生からも芸大に行った方がいいと言われたし、芸大に行かなきゃダメなんだと思って途中から芸大志望に変えたんですよ。それに近いことがスタートアップ界隈でも起きているんじゃないかなと思っていて。
本当は個人事業なのか、もしくは個人経営なのかで小さく、でもしっかりお金があって少人数で回すビジネスの方が向いているモデルの人とかはいると思います。だけどもみんなすごく頑張っているし、自分も頑張らなきゃ認められないみたいな気持ちで、本来のビジネスとして最適なサイズ感を越えたり、その人にとって最適なサイズ感を越えたりしているケースが結構ある。
「本当にそれでいいんだっけ」ということはおそらく考えた方がよくて、それさえ考えたならどの選択肢でもそんなに大はずれはしないのかなという気はしています。
布田:なぜ多くの人が間違った闘い方に進んでしまうんですかね?
ハヤカワ:モデルケースの種類が少ないからかなと思います。やっぱりIPOしている人の方が、メディア上で「すごい人」という取り上げられ方をされやすいじゃないですか。
そればかり見ていると「これが目指すべき姿なんだ」と思えてきてしまうけど、でもやっぱり自分がいろいろな人と会うようになって、いろいろな経験をして、別に自分1人でやるのもいいし、そういう小さくても長続きする会社を作ることも実は大変だし、素敵なことだと学んでいく。
一方で、ステークホルダーや株主を入れてどんどん大きくしてIPOするのも素晴らしいことですし、選択肢の幅を持っていると選びやすい。だから、誰かに言われて選ぶ人もいると思うのですが、少なくとも自分の場合は見てきた事例の数なのかなと思います。
布田:それってハヤカワさんのように知り合いが幅広くない普通の人だと、どう解決したらいいと思いますか?
ハヤカワ:上場していない会社とか人数がすごく少ない会社とか、事例を調べてもいいかもしれないですね。たとえば、この業態とかカテゴリってそもそも少人数の方がいいよねという話もあると思うので。こうやってフロントに出ている立場で言えることじゃないですが、メディアに出ている面だけが全てではないですし、やっぱり綺麗な部分の方が話しやすいことは否めないので、それよりはもう実態を見た方がいいのかなと思います。(後編へ続く)
POINT ・ 経営者と会社員では自分の闘い方が変わる・ 起業のしんどさを左右する最大の要因は、味方の有無 ・ IPOが全てじゃない、実態を見て選択肢は広げておく方がいい |
2023.9.26
取材・布田尚大/ソーシャルM&A®️ファーム GOZEN
文・引田有佳/Focus On編集部
▼前編(本記事)
IPOだけが素晴らしい起業じゃない / ハヤカワ五味×GOZEN布田対談
▼後編
ライフプランよりも大切な「身軽さ」とは何か / ハヤカワ五味×GOZEN布田対談
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