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or原材料は米こうじと塩のみ。シンプルながら食材本来のうま味を引き出し、料理に上品な味わいを加える。一時期大きく話題になった塩こうじを、シーンを問わず扱いやすい液状にした唯一無二の万能調味料「液体塩こうじ」は、100年以上続くハナマルキの歴史の中で培われた技術力と、ものづくりに真摯に向き合う姿勢の賜物として生まれた。
家庭用・業務用と幅広いニーズに応える同製品だが、発売当初は認知度のなさなど逆境に直面していた。特に最大の壁は社外ではなく、社内にあった。老舗企業ゆえに新しい取り組みへの偏見や反発は大きい。そんななか「液体塩こうじ」を同社のみそと並ぶ看板商品へと育て上げるべく、2013年に参画した現・同社取締役の平田伸行氏。
のち「老舗だけどベンチャー企業」へと変貌を遂げた同社で何があったのか。「液体塩こうじ」以降、何が変わったのか。全ては「人」から始まるという信念のもと変革を主導した平田氏に、組織や採用の観点から見るハナマルキについて、前後編からなるインタビューで伺った。
▼前編
優れた戦略があっても「思い」がなければ事業は作れない / 老舗ハナマルキ変革の舞台裏
──「液体塩こうじ」は事業として成功した製品であるだけでなく、会社自体を変えるきっかけとなった製品であるようですね。
そう思いますね。売り上げが上がったことも大きいのですが、それ以上に大きかったのは「企業風土を変えた」ということです。
私が入った頃と今を比較すると、新しい取り組みに対して抵抗なく取り組めるようになったことは大きいのではないかと思います。それまでもいろいろ新しいことはやっていたと思いますが、やはりその範囲が狭かった。「液体塩こうじ」が徐々に結果が出るようになって、新しくイノベーティブなことに対しても社員たちの「できる」という自信が生まれてきたのではないかなと思います。
小袋なし・お湯を注いですぐに食べられる同社の人気シリーズ「すぐ旨カップ」
2024年春、健康志向の高まりから人気が広がる「オートミール」を使用した3製品を新たに開発
あとは、社内外でのコミュニケーション量が圧倒的に増えたと思います。私が入った当時は会議室の予約ががら空きだったんですよ。当時、総務部の担当に「会議室の予約が全く入っていないけど、別管理にしているの?」と聞いたくらいです。
要は社内のミーティングが少ない、来客もない、そういうことですよね。ただ、今はもう真逆です。大概が予約で埋まるようになりました。新しいことに取り組んでいると、テーマが増えますよね。いろいろな仮説を立ててトライしていくことにもなる。また、ここ2~3年の取り組みとして、社内横断プロジェクトを増やしていることも大きいと思います。
現在は10くらいのプロジェクトが部門横断で動いていますが、たとえば最近だと「社内広報プロジェクト」というものを立ち上げました。社内に良いトピックが落ちていて、それをもっとうまく共有することをやっていこう、ということを議論したりしています。
──社内でのイノベーションや新しい発見に繋がりそうな取り組みですね。「塩こうじ会議(※前編より)」もその一環ということでしたね。
そうですね。「塩こうじ会議」は社内横断プロジェクトの先駆けで、今はみそも含めてしまって「塩こうじ追いこうじみそ会議」になっていますが、10年くらい続いているものです。私が事務局をやっていて、みんな一通りこの会議を経験してもらえるように、1年に1回メンバーが変わります。最近では参加者が各々積極的に発言する、非常に中身の濃い会議になっていて、この会議がほかのプロジェクトの手本にもなっています。
──さらに2022年には「熟成こうじパウダー」という新製品が発売されましたね。こちらはどんな可能性を秘めた製品なのでしょうか?
元々「液体塩こうじ」を展開するなかで、特に海外から粉末タイプはないのかというニーズが強くあって、顧客のニーズに応える形で開発された製品です。製品自体が軽いので、調理面での扱いやすさはもちろんのこと、輸送がしやすく海外含め広がりやすいですよね。機動力のある製品だと思います。
この「熟成こうじパウダー」は塩こうじにはない「メラノイジン」というコク味成分を持っていて、これがまだ始まったばかりですが既にいろいろなニーズがあって楽しみです。
たとえば、お菓子やスイーツとの相性がいいのですが、これは塩こうじではアプローチできなかった領域です。また、辛みを強めるという効果もあるので、キムチや明太子などにも効果的だと思います。「液体塩こうじ」同様に、あらゆる商品への展開の可能性があります。
──新しいタイプの独創的な製品ですね。まさに「洞窟の中でとにかくドリルで掘ってみる(※前編より)」にも通じるお話ですね。
チャレンジする精神というものが徐々に根付いている感じがしますね。「液体塩こうじ」を展開してきたことが活きていると思います。「液体塩こうじ」のような大きく差別化された独自性のある製品を出すメリットを社全体が経験できていることは大きいと思います。
新しい製品を出したときには、最初は苦労するのだけれども、ある程度育てていけると、新しいものを自分たちで育てたという自信が出てくる。今後も新しい展開をしようとするときに、この経験は活きると思いますね。
──海外需要のお話がありましたが、ハナマルキとしてはグローバル市場への進出にも力を入れているそうですね。
海外は2020年にタイに「液体塩こうじ」のみを製造する新工場が完成し、同年に中国、そして2024年春には米国に拠点を持ちました。海外の食品加工メーカーや食品・惣菜・パンメーカーなどを中心に売り上げを伸ばしていきたいと思っています。
「液体塩こうじ」については、順調に海外売り上げが伸びてきていますね。現在では30か国以上で採用実績があります。汎用性の高い調味料ですから「その国なりの使い方」があり、使用用途は多彩です。それが「液体塩こうじ」の強みですね。
最近では北欧のパンメーカーが「液体塩こうじ」を採用したパンを製造し、国内でヒット商品になっているようです。グローバルではパンを主食とする国がほとんどですから、「パンには液体塩こうじ」となっていくと、どんどん広がりますね。楽しみです。
──今後、ハナマルキはどんな姿を目指しているのでしょうか?
今ハナマルキでは「世界の発酵調味料メーカーになる」というスローガンを掲げています。創業してから長くは「日本のみその会社」でしたが、「液体塩こうじ」を作ってからは、グローバル展開が考えられるようになった。みそ、塩こうじを中心に「こうじを世界に」で進めていきます。
2023 年8 月に立ち上げられたブランド「ハナマルキ醸造 麹 研究室(略称ハナマルケン)」の新製品
「やってみる i try !」をブランドスローガンに掲げ、「麹」の可能性を追求している
──グローバル市場を拡大しつつある今、ハナマルキで働く魅力ややりがいはどんな部分にあると思われますか?
自分たちの手で歴史を作っていけるところなのではないかと思います。「液体塩こうじ」を例にとると、世界で見れば、まだ一度もうちの製品を使ってもらっていない国が大半なわけです。たとえば、今はまだ採用実績のないブラジルで「液体塩こうじ」を採用してもらえましたとなれば、ブラジルに初めて輸出したのは自分だと社に名前が残りますよね。そういう仕事ってなかなかできなくて楽しいと私は思うんですよね。
しかも、みそや塩こうじのベースとなっている麹菌は日本の「国菌」と言われていて、これは日本の文化ですよね。会社をグローバルに展開するだけでなく、日本文化をグローバルに広めていくというテーマで取り組める会社であるということが、私自身強いやりがいになっています。
社会的貢献、生まれた国への貢献というやりがいも感じられる仕事であり、また、ハナマルキはグローバルでも差別化された製品を持つ、非常に面白いポジションを持った会社です。ハナマルキは「老舗企業だけどベンチャー企業」。開拓意欲のある方には、楽しく仕事ができる会社だと思います。
POINT ・ 新規事業の成功は社員の自信となり、企業風土を挑戦的に変える・ 日本が誇る文化を自分たちの手で世界へ広める、そこにやりがいがある |
2024.11.21
文・引田有佳/Focus On編集部
▼前編
優れた戦略があっても「思い」がなければ事業は作れない / 老舗ハナマルキ変革の舞台裏
▼過去記事(平田伸行の人生に迫るストーリー)
逆境を成功にかえる方法 ― 世界に知られていない日本の伝統の挑戦
平田伸行
ハナマルキ株式会社 取締役 マーケティング部長 兼 広報宣伝室長
広島県出身。広島大学経済学部卒業。1990年、株式会社リクルートに新卒で入社。人材採用広報の制作ディレクターを経験後、新組織の立ち上げや自社の宣伝を担う。2010年、アパレル企業である株式会社クロスカンパニー(現:株式会社ストライプインターナショナル)に移り、宣伝広報部門の立ち上げを担った後、執行役員社長室長に就任。急成長期にあった同社の組織体制強化を任され、人事・システム・CS窓口など全方位的に体制の見直し・強化をおこなう。その後、2013年6月よりハナマルキ株式会社に参画。
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