Focus On
前田康統
株式会社wevnal  
取締役副社長兼 COO
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or自分らしさが投影された仕事こそ、人を感動させ、社会にとって意味あるものとなる。
日本最大級の不動産ビッグデータを駆使したコンサルティングにより、不透明な不動産にまつわる情報を、誰もが手軽に手にすることができる社会をつくる株式会社スタイルアクト。監査法人トーマツ系列のコンサルティング会社出身で「不動産×統計×IT」というニッチな領域でトップとなり、年間約60回もの講演を行う、代表取締役の沖有人が「純粋に生きること」について語る。
目次
たとえば、0対0同点のサッカーの試合で、試合終了の笛が鳴る数秒前。どの選手を、どこに立たせるべきか。どこに向かってボールを蹴らせれば、ゴールに入るのか。奇跡や予言ではなく、人より一手先を読む人がいる。道筋が見えれば、勝利という結果は必然になる。
株式会社スタイルアクトは、情報がブラックボックス化されている不動産業界の現状を、ビッグデータにもとづくコンサルティングにより変えていく。不動産投資の黎明期である1998年の創業以来、業界に先駆けて蓄積してきたデータの信頼性は言うまでもない。同社がまとめた「学区別平均世帯年収調査」の結果は、2017年4月にYahoo!ニューストップを飾るなど、大きな注目を集めている。(2017年9月28日、小学館より著作『マンションは学区で選びなさい』が発売予定)
代表取締役の沖氏は、監査法人トーマツ系列のコンサルティング会社でコンサルタントとして活躍していた。不動産×統計×ITというニッチな領域でトップとなった現在、書籍の執筆や講演など多数の依頼を受けつつ、2016年10月にはラスベガスで開催されたAREAA(全米不動産協会)主催の国際会議でスピーチした。
「楽しいと思えるようじゃないとね。毎日試行錯誤して失敗しながら、かっこよく純粋に生きるというのは言うは易しで、なかなかできないんですよ」
沖氏が語る、自分らしく純粋に生きる道とは。
不動産業界に存在するといわれる情報格差。情報化社会である現代においてさえ、いまだ消費者に公開される情報には限りがある。
ブラックボックス化された不動産情報というビッグデータを消費者にむけて翻訳し、売る側も買う側も「納得」の不動産取引を増やしたい。そんな思いが出発点となり、1998年スタイルアクト株式会社の前身となる、アトラクターズ・ラボ株式会社は設立された。
「業界では『経験と勘と度胸に基づいて正しい』とされてきたところに、私は別の軸をもってきた。つまり、不動産データを解析して全部数値化することで、それを確率論に変える。『一定の確率で当る』からこそリスク管理もできるし、やりましょうと言ったんですね」
設立当初から運営される会員制Webサイト『住まいサーフィン』は、統計学や築年数・立地など、さまざまな要因から不動産としての「価値」を算出し、ブランド費用などを除いた純粋な「不動産価値」として掲載している。現在20万人超の会員のうち、1000万円以上の含み益を出した会員が10万人程度、総額1兆円の個人資産形成に寄与した計算になるという。
マンションの無料会員制セカンドオピニオンサイト「住まいサーフィン」
監査法人系列のコンサルティング会社を退職し、不動産系のコンサルティング会社へ。計2社にてコンサルタントを経験している代表の沖氏。自らが好きで得意とし、最も成長できる領域をコアとして事業を展開することで、他の追随を許さない領域をつくりだすことを可能にしている。
「人から言われてじゃなく、自分でこうやったらいいんじゃないかなっていうのをずっとやってるから、圧倒的一番になれる。ブルーオーシャンがそこに存在すれば、結局多くの企業が参入して、数年後にはレッドオーシャン化します。長く永続できる事業を描くために一番確実な方法は、ニッチトップになることです。オーシャンではなくて、誰もいない小さな無人島でいいんですよ」
ブルーオーシャンと呼ばれるニッチな海におけるトップであったとしても、その海はいずれ他者の進入を許してしまう。世に語られるブルーオーシャンでは、いずれ誰かに真似される。自分にしか創り出せない島を創り出せるのであれば、それは誰も真似できない島となる。誰かのものでなく自らのオリジナリティを見出すからこそ、そこでしか生成されない価値あるものが生み出される。沖氏はそれを「ブルーアイランド戦略」と呼び、経営の支柱としてきた。
「競合と競り合ってどうこうみたいなレベル感でいちゃいけないと私は思っていて。ニッチトップになったら競合はいなくなるので、昨日の自分がライバルであると設定するわけです」
スタイルアクトは、「不動産×統計×IT」というニッチな領域で、唯一無二の不動産コンサルティングを実現し、その価値を拡大しつづける。それにより、顧客の価値を最大化する「真のパートナー」となるのである。
理想論を語れない人間は、親戚中で反感を買う環境で生まれ育った。沖氏の家系では、それぞれの理想をもって生き、人とは違う道を歩む人が多かった。
たとえば、延命ではなく安らかな最期を望む人の意思を尊重する日本尊厳死協会を作った人。海の上に浮かべる低コストな『フローター空港』というものをマレーシアの首相に提案した人。沖氏は小さい頃から、理想を語る大人たちの背中を身近に見て育ってきた。
「変わってる連中ばっかりなんですよ。でも、それがうちの家系の正義なので、自分でオピニオンを持って、正しいと思うことを貫けないと、『お前は何のために生きてるんだ』くらいのことを言われるんですよ」
自分がどんな道を歩み、何を成すべきか。自分のオピニオンは何なのか。自分の存在はなんであるのか。高校時代の沖氏は答えが見つからず、思い悩んでいることが多かったという。
「テストやっても一番じゃないしスポーツやっても一番じゃないし、そうすると一番じゃなければその他大勢だと思っていて。どうやって生きていったらいいのか分からなくて、生き方を探すためにも哲学書を読んでましたね(笑)」
一番にならないと自分の存在の証明にはならない。大勢の内の一人となってしまう。それでもなかなか一番になることが難しい。ある種の劣等感にさいなまれていた沖氏。所属していたサッカー部では、「自分がレギュラーにならなくても、チームが勝てばいいかな」と、自分を控える「内気ないい子」だった。
そんな沖氏を変えてくれたのが、サッカー部の指導をしていたOBの先輩だった。サッカーをその意味の根本から教えてくれる、どこか哲学的な人だった。
「『大体そういう考え方しているからダメなんだよ。一番にならないと意味がないんだ』と。『試合やるんだったら、相手がプロであっても勝たなきゃいけない。相手がプロだから負けてもしょうがないとか思っていたら、勝てるわけがない。それはやる意味もないんだよ』と教えられたんです」
その人の言葉は、どんな本で出会ってきた言葉よりも強く、沖氏の心を揺さぶった。
一番になることをどのような状況であっても考えなくては、いつまでも一番になるわけがない。試合に出る以上、勝たないと意味がない。一番にならないと意味がない。その言葉に出会ってからは是が非でも勝ちにいこうと願い、練習を繰り返した。自分で自分のコーチをして、どうしたらうまくなるのかの試行錯誤を重ねていった。
ゲームである限り、絶対に勝ちにいく。勝って一番になりたい。沖氏の考え方、物事へ取り組む姿勢に変化が訪れた。
サッカーを観ているとき、次に何が起こるか、少し先を読むことが昔から得意だった。だからこそ、自分が自分をコーチするときも、自分の成長の先の姿を考え、練習を組み立てることができたのだろう。
先を読むシミュレーション能力に長けている自分は、監督に向いているのではないか。そんな思いを抱き、一浪して慶應義塾大学に入ると母校のサッカー部の監督になった。
「なにか一言アドバイスを選手に与えたときに、結果が変わる。Aという一言が、負けるという結果を、勝つという結果に変えることができる。そして、その一言はなんなのか見つけることができる。結局、監督っていうのはシミュレーションできるということが非常に重要なんです」
勝利というただ一つの目的のために、必要なロジックを組み立てる。勝つためのシミュレーションができるからこそ、自分は勝利に導けると信じていた。半年間一度として試合に勝つことができなかったチームであったが、沖氏の監督就任後わずか数ヶ月後には都大会で強豪校に勝利するほどに成長していた。
「ほかの人にはできない。でも、自分はシミュレーションをして、それを実現することができるんだなということに、初めて気づいたんですね」
ほかの人にはないと思える自分の能力に気づいた沖氏。結果を残したことは大きな自信となったが、失敗も経験した。
「レギュラーの人間にいい思いさせるのは簡単なんです。でも、私も現役時代レギュラーじゃなかったので、レギュラーじゃない人間にもいい思いをさせて勝ちにいこうと思ったんですね。それでも勝てると思ったんです。だけど、サッカーの神様って結構気まぐれでいじわるなんですよね」
自分の力を過信し、温情でメンバーを交代させたことで、チームは敗北した。余計な感情が、自分にとっていらないバイアスをかけたのだ。絶対勝つと考えていても、負けるには負ける理由がある。どうしても勝ちたいときには、どうしてもやらなければならないことがある。それを経験として学んだからこそ、勝つために必要なロジックを正しく認識するようになった。以降、チームが負けることはなかったという。
「私はそのとき選手に対して謝りました、『俺のせいで負けた』って話をした。そのとき自分の心情は入れない。入れれば、交代させたメンバーのせいにしちゃうことになるので。上の人間のやることなんで、それは全部被ってあげないとだめですよね」
先を読み行動することができるからこそ、勝敗の因果関係ははっきりしていた。チームの失敗は自分の失敗であり、自分の責任だった。責任は自分で負う。それが上に立つ人間の、役割と責任だと考えた。どこか、自らは人の上にたち勝利に導く存在であることを意識する経験でもあった。
サッカー部の監督としての体験が大きな転機となった沖氏。とはいえ就職活動の時期には、「何になりたい」という希望はなかったという。
ただ高校時代から経営者の本を読んでいたことや、家系の非凡さもあり、将来サラリーマンになるという感覚はあまりなかった。ちょうど適性検査が開発された頃で試験を受けると、経営者とコンサルタントへの適性がとても高いという結果が出ていた。
自分の感覚に沿わないものを避け、直感で選んでいった結果、監査法人トーマツ系列のコンサルティング会社に入社した。コンサルタントとしてのキャリアのスタート。しかし、社内は東大や京大など高学歴ばかり。後輩に抜かれることもある。各分野に強い人に囲まれ、一番になりづらい環境だった。
「たとえばシステムコンサルというと、東大の理科一類を出た人がやっぱり圧倒的に1番できたわけです。電子工学科出てますって言ったら、コンピューターの分野で何でもできる。ロジック組ませても完璧だし間違わないし、喋っていても答えに先に行き着くんですよ」
電子工学的な計算能力では勝てない。自分は一番になれない。しかし、少し路線を変えれば一番になることはできそうだとも感じていた。細かいロジックを作れることは一人のプレーヤーとして優秀であるかもしれないが、自分はどちらかというと人の上に立ち道筋を示すマネジメントとしての存在の方が価値を発揮できる。20代は葛藤を抱えながら生きていた。
そんなある日、当時の社長が全社に向けて放った新年の挨拶の言葉に、衝撃を受ける。
「『コンサルタントっていうのは、なんでも何か小さい分野で一番にならなきゃだめなんだよ。一番になれば引き合いがいくらでもくるよ』と」
まだグローバル企業も少なかった時代、税制のなかでもニッチな領域である移転価格税制を例として挙げていた。
「『それってグローバルな企業しか関係ない話なんだけど、その分野って狭いので。たとえば、その分野だけだったら条文とか訴訟とか、お前らだったら3ヶ月で全部調べこんで、この道のトップだと言えるような学習をすることができるだろ』と」
狭い分野でいいから一番になりなさい。そうすればどんな大手企業であったとしても、グローバルな企業に関してはすべて引き合いが来るだろうと、社長は語った。
「『みんな知りたいんだけども、きちんと分かっていてコンサルができるという本当のスペシャリストって日本に5人もいない。そしたらいくらでも仕事はあるし、相手は全部大企業だ。そういう風に小さい分野で1本1本柱を立てるんだ』みたいな話をされました。それは私にとって、すごいショッキングで心に刻まれることだったんです」
小さな領域で一つ一つ得意な領域を築き上げ、自らの価値を高めていく。自分が得意とし、最も輝けるようなニッチな領域を選択しトップになる。そしてそれを重ねていくことでライバルのいないニッチトップを創り出す。そうして、唯一無二の地位を確立し、社会を変えていく。そうすれば自分のオピニオンをもって、理想を掲げて貫き通すことができる。沖氏にとって、それが生きる道となった。
ニッチトップになるためにはどのように領域を選んだら良いのだろうか。その方法を語るとき、沖氏は「アトラクター」の存在について触れる。
「『アトラクター』っていうのは、自分の興味あること。人間って自分の興味あることしか、情報として残らないですよね。そのアンテナをきちんと立ててない人間は、たとえば100の情報があっても全部スルーするわけですけど、アンテナを立てれば100の情報のうち3つが頭に残るわけです」
「自分の興味のあること」のアンテナをしっかりと立てること。アンテナの立て方は人それぞれ違う。100の情報のうち、どの情報が自分のアンテナに反応するかも人それぞれだ。いずれにせよ、頭で覚えきれないものは、ただのノイズとしてスルーしているものがたくさんある。だからこそ、自分が興味がありひっかかるもの、それを集めるために確実にアンテナを立てることが大事だという。
「集めたものを再構築したら、これは自分の遺伝子みたいなものなので、遺伝子が構築する形っていうのは人それぞれ違うわけですよね。それをきれいな結晶体にすることが大事なんです。だから、自分のアトラクター(興味あること)に対してはすごく正直じゃなきゃいけない」
自分の興味のあることに純粋になり、一つ一つを集めて自分のカタチにしていく。邪推のようなものはすべて排除した上で、自分がピュアな状態をつくる。そうすると、結晶がとてもきれいなものになる。
「芸術家やスポーツ選手、科学者であったり、そういう一人の才能を輝かせる人になるためには、この『アトラクター』がどうしても必要なんですよ。それが純粋に生きることなんです、それを守るだけですね」
アトラクターをもって生きる。それが、一人の自分として生きる道となり、輝きを放つ。それこそが、社会においてニッチでトップである状態となり得るのだ。
「私と秘書しかいない時代に、『住まいサーフィン』を立ち上げたんですね。自分が純粋にこういうものがほしいなと思うものをつくったんです。最初は毎週30人、友達しか来なかったサイトが、1年後には1万人が来るようになりました」
監査法人トーマツ系列のコンサルティング会社を退職し、不動産コンサルティング会社を経たのち、沖氏が純粋に興味をもって結晶化してきた領域が「不動産×統計×IT」だった。それが会社という形になり、1998年スタイルアクト株式会社(設立当初の社名はアトラクターズ・ラボ株式会社)は設立された。
自分にとって必要な情報を仕入れて、それを試してみる。それを繰り返すことができる人だけが、自分らしい形で結晶をつくれる。自己組織化をしていく。すなわち自分のオリジナリティを出して形をつくることができるからこそ、人と違うことができる。
「オリジナリティをもってつくった結晶を外に出す経営者は、小さくても大きくてもかっこよく生きられます。小さくても別に良いんですよ、自分が食っていけて。価格交渉しなくても、言い値で売れて。自分が好きなことやりながら、『ああ楽しかったね』って人生終えられる」
世の中でニッチトップになる戦略論を語る人はほかにもいるが、自分のオリジナリティの必要性について触れられているものはない。
「うまくできるものを見つけて、一番になりましたっていうことはできたとしても、あなたのオリジナリティと何が関係あるの?というところが遊離してしまうと、ただうまくやっただけの人になってしまう」
ただ一番になるものを見つけて集めても、本当のニッチトップであるとはいえない。自分が純粋に興味があることで、かつ得意なことをやっていく。それが、ほかにないオリジナリティとして事業の存在を支える。それがニッチトップの真の意味であり、ブルーアイランドとなり得る筋道なのである。
「自分が純粋であることは非常に重要なんです、ひねくれてるとできないんですよ。ブルーアイランド戦略っていうのは純粋に生きることが大事で、そうじゃないときれいなものができないんです。たとえば、シャガールの絵見たら、シャガールの絵だって分かる。誰だってゴッホの絵見たらそう分かるし、ピカソだって分かるわけですよ」
そこに自分らしさが投影されていて純粋であるからこそ、美術としてはきれいになる。「こうやったら人に受ける」といった気持ちで描いてる限りは、いつまでたっても人を感動させられるようなブルーアイランドを生み出せない。自分の根底のきれいな遺伝子を結晶化させ、それを表現するからこそ人は感動し、『見たことない』『オリジナルで素晴らしい』という賞賛の声とともに社会から認められる姿を世に提供できる。
沖氏の父も、自分に純粋に生き、自分らしい生き方を貫く人だった。フリーの報道写真家として国内外で活躍し、世界で唯一許可を得てマザー・テレサを長期密着取材していた。1979年に彼女がノーベル平和賞を受賞したことで、父の写真集は一躍有名となりベストセラーになった。
ブルーアイランドは純粋さの反映である、だからこそ社会に感動を与えるほどの事業を残していくことを可能にする。
自分のやりたいことをやりながら、人を幸せにしていく。多くの人がそれを叶える社会としていくためにも、「ブルーアイランド戦略」の存在と意義を、沖氏は世に発信していく。
沖氏が座右の書とする『鏡の伝説』(ダイヤモンド社、1991年)*という科学書に、カオスフラクタル理論として語られるものがある。 *J・ブリッグス著、F・D・ピート著、高安 秀樹訳、高安 美佐子訳(本書中にて「アトラクター」についても言及されている。)
「最初のうちは、うまく説明できないこと、つまりカオスがあります。でも、それはなんらかの秩序に近づいていきますっていう『カオスから秩序へ』の話なんです。でも、いったんできた秩序からは、またカオスが生まれていく『秩序からカオスへ』という話で終わるんですよ」
カオス・混沌、予測不可能に見える状況であっても、そこには何らかの法則性が多層に重なり潜んでいる。一見すると秩序のないように見えるものに一筋の光を、秩序を見つけ出す。そして、またそこに混沌がうまれる。
沖氏の持つ「シミュレーション能力」があるからこそ、日々混沌の中で未来を予測し、秩序を見出しつづけることができた。そうしてブルーアイランドはより良いものとなり、社会に意味を与えるものへと進化をつづけていく。
「試行錯誤でいいんですよ。結果を見たいんです。やって失敗することに対しては何も言わないです。その代わり、打ちつづけないといけないので、打つ数の方が絶対的に大事で。確率も良くなっていけば、だんだん分かってきますよね。それが年に1回しか打ってませんというのなら、いつまでたっても一流にはならないですよ」
昨日の自分を上回るために、今日をいかに生きるか。それは、自分のアイディアを毎日試しつづけることを指す。一年間で365回試行錯誤をつづけることができれば、一日0.1%でも成長した場合、一年で30%程度は成長できる。そうやって、事業を発展させていく。
一つの秩序を見出すだけでは社会からの要請からは乖離する。何度も何度もシミュレーションをし、秩序を見出し、また生まれてきた混沌に繰り返し向き合う。それを幾重にも重ねていかなければならない。そうやって自分らしい結晶を形作り、拡げていく。
それはときに困難を伴う。ただ大きくしつづけるだけでは、自らの思い・結晶が次第に失われていく。だからこそ、新しく小さな結晶をたくさんつくりつづけ、その結晶をどう大きくしていくかを考えつづけなければならない。大きくしようという動きだけでは、ブルーアイランドは成立しなくなってくるのである。
かの芸術家たちがそうであったように価値の高いものを生み出しつづける組織であるために、純粋に「ベンチャー」としてニッチトップを狙う。そこから道筋が外れて歪んでくると、組織として「大企業的」になり、つまらない会社になっていく。「思い」に純粋になり、大切にしつづけながら、社会から求められつづける組織。そのためのブルーアイランドが、沖氏の生み出すスタイルアクトなのだ。
2017.08.28
文・引田有佳/Focus On編集部
「大切なのは、ただ生きるということではなく、善く生きるということである」― ソクラテス(紀元前469- 紀元前399)
古代ギリシアの哲学者ソクラテスは、アテナイの国家から裁判にかけられ、死刑判決をうけ一生を終える。仲間からは国外逃亡のすすめをうけていたが、判決に従って毒を飲みほしたという。最期まで自らが信じる道をとおし、市民の堕落を批判しつづけ、死刑へと至る原因となった自身の考えを、死刑を免れるために、捻じ曲げ、変えることはなかった。
彼は人の魂は善き方向に向かうよう見出す必要があり、それが正しい生き方や幸福へと導いてくれると語った。それは、「世渡り」のように人の外側にあるようなものごとの追求ではなく、地位や名誉や富といったもののみに気を配ることでもなく、善く美しいことの追求にあるという。
現代を生きる我々は、善く生きることを少しばかり放棄しているようにも思える。地位や名誉にのみに気を使い、それに疲れると、ただただ、そこから逃避する。生きる上でつぶさに発露する自己の発想において、自己そのもののありようの追求を忘れていってしまった人々の時代であるように思える。それは自己の追求ではなく、自己の周辺への気遣いであり、自己が社会から見たときに持ちうるもの(名誉など)を社会という観点から追求してしまっている。
それでは自己の存在は確立しない。自分として存在するための柱を見出すことを難しくしてしまっている。結果、自己の追求を放棄して、また名誉や地位という社会から見た自己を起点とした発想にもどってしまう。
人は自己を起点とした自己を追及することで、自分固有の心をみつけ、磨き、幸せを手にすることができる。そして、それは社会においてもその人しか持ちえない力となりゆくのである。そうすれば、幸せに生きるための道を見つけられずに、命の終わりを迎えてしまうことはなくなる。自分固有の存在として、幸せに生きることができるのである。
沖氏の生きる道は、現代に生きる人々が正しく幸せに生きるための背中を見せてくれている。それぞれ人が持ちうる固有の島を見出し、より善く生きるための新たなパラダイムを提示してくれる存在といえる。
ブルーアイランドは、単に人の生き方を社会へと迎合させることなく、正しく反映させる生き方論なのである。
文・石川翔太/Focus On編集部
スタイルアクト株式会社 沖有人
代表取締役
1988年、慶應義塾大学経済学部卒業。監査法人トーマツ系列のコンサルティング会社、不動産コンサルティング会社を経て、1998年にアトラクターズ・ラボ株式会社(現在のスタイルアクト株式会社)を設立、代表取締役に就任。住宅分野において、マーケティング・統計・ITの3分野を統合し、日本最大級の不動産ビッグデータを駆使した調査・コンサルティング・事業構築を得意としている。当社設立当初から運営している分譲マンション価格サイト「住まいサ〜フィン」の会員数は、現在、20万人を超える。執筆活動も積極的に展開。『経営者の手取り収入を3倍にする不動産戦略』(日経BP社)、『マンションは10年で買い替えなさい』(朝日新書)など著書多数。各種メディアへの寄稿、テレビ出演等多数。